東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)202号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯及び本件審決の理由の要点が原告主張のとおりであること、並びに本願意匠が意匠に係る物品を「間隔測定杆」とし、意匠の態様を別紙図面(一)のとおりとし、引用意匠が意匠に係る物品を「直線測定器」とし、意匠の態様を別紙図面(二)のとおりとするものであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、本願意匠及び引用意匠の基本的構成や具体的態様を誤認又は看過し、両意匠の対比判断を誤つた結果、本願意匠が引用意匠に類似するとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、以下に説示するとおり、本件審決の認定判断は正当であつて、原告の主張は、すべて理由がないものというべきである。
1 成立に争いのない甲第二号証の一(本願意匠の意匠登録願書)及び同号証の二(類似意匠登録願書及び添付図面)によれば、本願意匠の基本的構成は、複数の単位杆体を伸縮自在に調整できるように嵌挿連結した竿状杆体と目盛表示部を有する箱体(目盛表示箱)とからなり、右竿状杆体は、それぞれ径が異なる管状の単位杆体を径の大小に従い上方より順次重ね入れたものとし、その最外側の単位杆体の上端寄りの位置には右目盛表示箱を後方に突出する態様で取り付け、最内側の単位杆体の先端に係留具を設けたものであること、これを更に具体的にみると、右の各単位杆体は、いずれもほぼ円管状の杆体で、各上端には、その上縁周部を円錐台状にした環状の縁具が配され、そのうち最外側の単位杆体には、更に下端にも環状の縁具が配されており、また、最内側の単位杆体の先端に設けられた前記の係留具はほぼ横S字状をなしており、一方、前記目盛表示箱は、その取り付けられた最外側の単位杆体の径をやや超える幅に相当する厚みのある扁平な縦長の角形箱状で、右厚みに比し前後に広幅で、該箱体の前後端縁(辺)は側面よりみて平行な直線状をなし、上端縁(辺)は後下方の斜状に大きく切欠された肩落とし状で、その平面上に目盛表示窓が設けられ、該箱体の下端縁(辺)は水平であるが、その後方隅部は大きく隅丸状の後あがり状となつており、また、該箱体の前面部はその断面形状が取付単位杆体に準じた円弧状をなし、右目盛表示箱とその取付単位杆体である最外側の単位杆体とは、後者が前者の前端縁部の肉厚の中央部を縦に貫通した態様で結合しており、目盛表示箱のその余の部分は後方へ突出した状態となつていることが認められ、以上は、本件審決における本願意匠の基本的構成及び具体的態様の認定と、ほぼ符合するところである、原告は、本願意匠の各単位杆体は、その断面形状が全部円形であるから、「全部円管状杆体」と認定すべきであつて、本件審決のように、これを「ほぼ円管状杆体」と認定するのは誤りである旨主張するが、前掲甲第二号証の一及び二に徴すれば、本願意匠の願書添付図面からは、その断面形状がすべて真円をなしているものとは断定し難いところであつて、右の本件審決の認定は相当というべきであるから、原告の右主張は失当である。また、原告は、本願意匠の目盛表示箱は、その背面側の面(本件審決のいう「前面」)が平面視半円形の曲面とされ、左右両側面が平行な平面とされた「背表紙の丸い本の如き形(背丸本形)」であり、その厚さ対前後長さは約一対二・一であつて扁平ともいい難いにもかかわらず、本件審決が、これを「扁平な」「角形箱状」と認定したのは誤りである旨主張するが、意匠の構成の認定は専らその外観から視覚的になされるべきであるところ、右目盛表示箱の外観を視覚的に観察した場合、これを本件審決のように「扁平な」「角形箱状」と表現することに何らの支障もない。加えて、本件審決は、右目盛表示箱の形状を、単に「角形箱状」とのみ認定しているのではなく、右のように概観したうえで、原告の指摘する前面部の曲面等にも触れ、その形状をほぼ余すところなく詳細に認定しているものであるから、原告の右主張も採用できない。更に、原告は、本件審決は、本願意匠の各単位杆体の縁具につき、これを「環状の縁具」とのみ認定し、これが側面視<省略>形で、その上端面が直上段に位置する縁具の下端面に一致する態様のものであることを看過している点で違法である旨主張し、右環状の縁具が原告主張のとおりの態様を有していることは、別紙図面(一)によつても明らかであるが、意匠の構成及び態様の認定は、その類否判断に必要な限りにおいてなせば足りるものと解され、また、本件において、右の点がその類否判断を左右するものでないことは後に説示するとおりであるから、本件審決がこれを明確に摘示していないことをもつて違法とすることはできず、したがつて、この点に関する原告の主張もまた、採用の限りではない。
2 他方、成立に争いのない甲第三号証(引用意匠に係る意匠公報)及び乙第五号証の一ないし四(引用意匠の願書添付の図面代用写真)によれば、引用意匠の基本的構成は、複数の単位杆体を伸縮自在に調整できるように嵌挿連結した竿状杆体と目盛表示部を有する箱体(目盛表示箱)とからなり、右竿状杆体は、それぞれ径が異なる管状の単位杆体を径の大小に従い上方より順次重ね入れたものとし、その最外側の単位杆体の上端寄りの位置には右目盛表示箱を後方に突出する態様で取り付け、最内側の単位杆体の先端には係留具を設けたものであること、これを更に具体的にみると、右の各単位杆体は、最外側の単位杆体が、横断面がほぼ卵形の先細側の先端部を直線状に切欠した変形楕円管状であるほかは、いずれもほぼ円管状で、ほぼ円形を主体とする管状杆体であり、各上端には上縁周部及び下縁周部をいずれも円錐台状とした環状の縁具が配され、そのうち最外側の単位杆体には、更に下端にも係留具付の環状の縁金が配されており、また、最内側の単位杆体に設けられた前記の係留具は、先端で小さな計測片を杆体に対し横L字状に起立させ得るようにしたものであり、一方、前記目盛表示箱は、取付単位杆体の径(先太側の径)をやや超える幅に相当する厚みのある扁平な縦長の角形箱状で、右厚みに比し前後に広幅であり、該箱体の前後端縁(辺)は側面よりみて平行な直線状をなし、上端縁(辺)は後下方の斜状に大きく切欠された肩落とし状で、その平面上に目盛表示窓が設けられ、該箱体の下端縁(辺)は後上方のゆるい斜状に後あがり状とし、また、その両側面は後端縁に向かうに従つて厚みがやや薄くなつており、右目盛表示箱とその取付単位杆体である最外側の単位杆体とは、後者が前者の前端縁部の肉厚の中央部を縦に、断面円形状部を前方にして貫通した態様で結合しており、目盛表示箱のその余の部分は後方へ突出した状態となつていることが認められ、以上は、本件審決における引用意匠の基本的構成及び具体的態様の認定と、ほぼ符合するところである。原告は、引用意匠の自然な態様は、内側の単位杆体を最外側の単位杆体の内部に収納した状態であり、この種物品はその状態で取引等されるものであるから、看者に対しては、最外側の単位杆体の形状である変形楕円管状を主体とする印象を与えるものであつて、これを本件審決が「ほぼ円形を主体とする管状杆体」とまとめたのは誤りである旨主張する。しかしながら、本願意匠や引用意匠のように伸縮自在のいわゆる「測定杆」にあつては、その通常の使用形態である伸杆した状態をもつて、その形態変化の基本的状態と認めるのが相当であるから、主に伸杆した状態をもとに各単位杆体の形状認定を行うべきであり、原告の主張は、その点で既に前提を誤つたものである。そして、右伸杆した状態を主として外観を観察するときは、前認定のとおり、最外側の単位杆体以外はすべてほぼ円管状を呈しており、また、最外側の単位杆体も変形楕円管状であり、広義でいえばほぼ円管状の範疇に入るものであつてみれば、本件審決のように、これを「ほぼ円形を主体とする管状杆体」とまとめても何ら不当ではない。したがつて、原告の右主張は採用できない。また、原告は、引用意匠の目盛表示箱の形状について、その平面視をとり上げ、前端縁の厚さ対後端縁の厚さが約一対〇・五三であり、かつ、その前端部は平面となつていて、平面視くさび形との印象を与えるものである旨主張するところ、本件審決は、平面視についてまで格別の摘示をすることはしていないが、引用意匠の目盛表示箱の形状につき、その両側面が後端縁に向かうに従つてやや薄くなつている点を含め、ほぼ余すところなく詳細に認定しており、原告主張のように、その平面視をくさび形と表現しなければ、意匠の類否判断に影響を及ぼすものとはいい難いから、その認定は相当というべきである。更に、原告は、本件審決は、引用意匠の各単位杆体の縁具につき、これを「環状の縁具」とのみ認定し、これが側面視<省略>形であることを看過している点で違法である旨主張し、右環状の縁具が原告主張のとおりの態様を有していることは、別紙図面(二)及び前掲乙第五号証の一ないし三から明らかであるが、前に、本願意匠における環状の縁具について説示したところと同様の理由により、原告の右主張を採用することはできない。
3 以上認定したところに基づき、両意匠の構成を対比すると、両意匠は、複数の単位杆体を伸縮自在に調整できるように嵌挿連結した竿状杆体と目盛表示部を有する箱体(目盛表示箱)とからなり、右竿状杆体は、それぞれ径が異なる管状の単位杆体を径の大小に従い上方より順次重ね入れたものとし、その最外側の単位杆体の上端寄りの位置には右目盛表示箱を後方に突出する態様で取り付け、最内側の単位杆体の先端には係留具を設けた基本的構成において一致し、また、その具体的態様においても、各単位杆体が、おおむね横断面ほぼ円形の管状の杆体からなり、その各上端には環状縁具を配し、最外側の単位杆体には、更にその下端にも環状縁具を配した点、目盛表示箱は、扁平な角形箱状をその前端縁部で杆体に貫通状に結合し、その大部分を後方へ突出した状態となし、その後上方を肩落とし状に、その後下方を後あがり状とし、更に、その肩部の平面に目盛表示窓を設けた点を共通とすることが認められる。他方、最外側の単位杆体の断面形状が、本願意匠ではほぼ円形状であるのに対し、引用意匠では変形楕円形状である点、目盛表示箱の形状につき、本願意匠では、その後方隅部を大きく隅丸状の後あがり状としているのに対し、引用意匠では、これを後上方のゆるい斜状に後あがり状としており、また、目盛表示箱の両側面についても、本願意匠が平行としているのに対し、引用意匠では、これを後端縁に向かうに従つてやや薄くしており、更に、目盛表示箱の前面部につき、本願意匠が取付単位杆体に準じた円弧状としているのに対し、引用意匠ではその部分は平面である点、最内側単位杆体の先端の係留具の形状につき、本願意匠ではほぼS字状をなしているのに対し、引用意匠では、これが、小さな計測片を杆体に対し横L字状に起立させ得るようにしたものである点及び各単位杆体上端の環状縁具につき、本願意匠のものは、その上縁周部のみ円錐台状としているのに対し、引用意匠では、上縁周部及び上縁周部をともに円錐台状としている点で、それぞれ差異があることが認められる(なお、以上認定の一致点、相違点は、一部本件審決が認定していない点を含んでいるが、後記説示に照らし、それが、本件審決を違法とするものでないことはいうまでもない。)。
ところで、いずれも成立に争いのない乙第六号証の一(昭和四一年二月一五日特許庁発行の意匠登録第二五五六八二号の意匠公報)、同号証の二(昭和四四年一月二九日特許庁発行の意匠登録第二五五六八二号類似第一号の意匠公報)及び同号証の三(昭和五〇年一一月一四日特許庁発行の意匠登録第二五五六八二号類似第二号の意匠公報)、第八号証(実公昭四六―三二三七九号実用新案公報)、第九号証(昭和五二年六月一日特許庁発行の意匠登録第四四九〇八一号の意匠公報)、第一二号証(昭和三九年意匠登録願二二九〇五号審査簿)、第一三号証(昭和四一年意匠登録願一八〇九三号審査簿)並びに第一四号証(昭和四一年意匠登録願一八〇九四号審査簿)に徴すれば、本願意匠や引用意匠と同種の間隔測定具の分野においては、それぞれ径の異なる、断面形状が円形や楕円形の細長い管を、径の大小に従い順次重ね入れて伸縮自在の竿状となし、適宜、その最先端部に任意の形状の係留具を付け、また、各管の先端に縁具を配するなどした形状のものが、両意匠の意匠登録出願当時、周知の形状として広く知られていたことが窺われ、これらの従前の意匠の状況を参酌し、かつ、両意匠の形状を全体的に観察するときは、前認定に係る両意匠に共通の構成及び態様、殊に、最外側の単位杆体の上端寄りの位置に扁平な角形箱状の目盛表示箱を取り付け、その結合状態を目盛表示箱の前端縁部で右杆体に貫通状に結合したものとし、該箱体の大部分は後方へ突出した状態となし、また、該箱体の後上方を肩落とし状にして、その肩部に目盛表示窓を設け、後下方は後あがり状とした点が、従前のものに比し看者に特異な印象、美観を起こさせるものとみるべきであり、これらの構成態様が看者の注意を最も引く特徴として、両意匠においてその支配的要素をなすもの(要部)であると認めるのが相当である。この点に関し、原告は、以上の構成及び態様は、本願意匠及び引用意匠の各意匠登録出願前にフランスの工業所有権公報に掲載され、日本国内においても頒布されたフランス特許第一五四七四八六号公報によつて開示された意匠とほぼ一致しており、したがつて、この点は、両意匠の意匠登録出願前から、この種物品における周知の形態をなしていたものであるから、両意匠の類否判断上、これらの点を重視することは正当でない旨主張する。しかしながら、成立に争いのない甲第四号証(右フランス特許公報)の図面等からは、「直線測定器」と称する物品の杆体部分と目盛表示部を有する把持部側面の概要が窺われるのみであつて、右図面等によつては、そこに現された意匠が前記構成及び態様を具有するものであるか否かを確認することができないものといわざるを得ないのみならず(他にこの点を認めるに足りる証拠はない。)、たとい、右意匠が前記構成及び態様を具有するものであるとしても、前段説示のとおり、本願意匠と引用意匠とを全体的に対比判断するとき、右共通点をなす構成及び態様が、看者の注意を最も引くところと認められる以上、このことは、何ら前示判断を左右するものということはできないから、原告の右主張は、これを採用することができない。また、原告は、本件審決において両意匠の共通点とされている点は、この種の物品の機能上必然的に要求される形状にすぎないから、このような部分に本願意匠の特徴が存するものではない旨主張するが、原告指摘の点は、いずれも、間隔測定杆としての機能上当然に要求される形態であるものと認めることはできず、この認定を覆し、原告主張の事実を認めるに足りる証拠はなく、また、両意匠の右構成及び態様が、間隔測定杆として要求される機能上の制約のもとに、任意に創作された形態であることを否定する証拠もないから、原告の右主張もまた失当といわざるを得ない。
次に、前認定の両意匠の相違点が本件意匠の美感に及ぼす影響についてみるに、まず、最外側の単位杆体の断面形状が、本願意匠ではほぼ円形状であるのに対し、引用意匠では変形楕円形状である点についてみるに、両意匠の各単位杆体全体という観点からみれば、両者ともほぼ円管状との形態に包摂されるものであることは前叙のとおりであり、また、引用意匠に対して本願意匠が採用したほぼ円管状との形態は、前認定の同種物品の杆体の形状に照らすまでもなく、極めて周知の形態であることが明らかであるから、この点を本願意匠の特徴とすることはできない。また、目盛表示箱の形状につき、本願意匠が、その後方隅部を隅丸状の後あがり状としているのに対し、引用意匠では、これを後上方のゆるい斜状に後あがり状としている点、本願意匠が、その両側面を平行としているのに対し、引用意匠では、これを後端縁に向かうに従つてやや薄くしている点及び本願意匠が、その前面部を取付単位杆体に準じた円弧状としているのに対し、引用意匠ではその部分は平面である点について、原告は、これらの点が、引用意匠に比し本願意匠の目盛表示箱に柔かな印象を与えており、更に、前記最外側の単位杆体の形状とあいまつて、本願意匠が全体として柔かな印象となる要因をなしている旨主張するが、これらの点はいずれも程度の差異にとどまり、両意匠の支配的要素をなす前認定の構成及び態様から受ける印象を圧して、看者に格別の印象を与えるものとはいい難いから、両意匠の類否を左右するほどの構成上の差異と認めることができない。更に、各単位杆体上端の環状縁具の形状及び最内側の単位杆体の係留具の形状の差異は、いずれも、意匠全体からみれば、極めて細部に係る部分的な態様の差異にとどまり、到底、両意匠の前示支配的要素をなす部分が看者に与える美観に影響を及ぼし、両意匠の類否判断を異ならしめるほどのものと認めることはできない。
4 そうすると、本件意匠と引用意匠とはその要部を同じくするもので、両意匠間に部分的に差異があるけれども、その差異は全体として観察すれば、いまだ非類似の意匠とするに足りないものであり、そして、両者の意匠に係る物品は同一のものである(この点は、原告の明らかに争わないところである。)から、両意匠は類似の意匠というべきであり、これと同旨の本件審決には、何ら違法の点はない。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註その一〕 本件に関する特許庁における手続の経緯および審決理由の要点は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五二年八月二九日、意匠に係る物品を「間隔測定杆」とする別紙図面(一)の意匠について、昭和五〇年意匠登録願第一一三三三号意匠を本意匠とする類似意匠の意匠登録出願(昭和五二年類似意匠登録願第三四五四四号)をし、昭和五八年四月一五日、右類似意匠の意匠登録出願を独立の意匠登録出願(昭和五八年意匠登録願第一六三二六号。以下、この出願に係る意匠を「本願意匠」という。)に変更したところ、昭和六〇年一二月一六日拒絶査定を受けたので、昭和六一年三月一七日これを不服として審判の請求(昭和六一年審判第四七二四号事件)をしたが、昭和六二年九月九日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本判審決」という。)があり、その謄本は、同年一〇月一日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点
本願意匠は、別紙図面(一)に示すとおり、複数の単位杆体を所望の長さに伸縮自在に調整できるように嵌挿連結した竿状の杆体とその伸縮に合わせて連動する計測目盛表示部を有する箱体(目盛表示箱)とからなる「間隔測定杆」の態様の創作に係るところ、その基本的構成は、各単位杆体がそれぞれ頂部を開口した上下に細長い太さの異なる直状の管状(鞘状)とし、全体は複数の単位杆体を径の大小に従い上方より順次重ね入れたものとし、そして、この竿状杆体の最外側の単位杆体の上端寄りの位置に目盛表示箱を後方に突出する態様に取り付け、一方、最内側の単位杆体の先端に係留具を設けた構成からなり、また、その具体的態様は、右各単位杆体は、ほぼ円管状杆体で、その各上端付近には環状の縁具を配し、そして、目盛表示箱は、取付単位杆体の径をやや超える幅に相当する厚みのある扁平な縦長の角形箱状で、右厚みに比し前後にも広幅で、その前後端縁(辺)が側面よりみて平行な直線状をなし、一方、取付単位杆体がその前端縁部の前記幅狭の肉厚の中央内側を縦に貫通した態様で結合し、該箱体はその余の全体が後方へ突出状とし、他方、同箱体の上端縁(辺)は後下方の斜状に大きく切欠した肩落とし状とし、その平面に目盛表示窓を形成し、下端縁(辺)は水平で後方隅部を大きく隅丸状の後あがり状とし、更に、その前面は取付単位杆体に準じた円弧状としたものであり、また、最外側の単位杆体の下端付近にも環状の縁具を配し、一方、竿状材体先端の係留具はほぼ横S字状としたものである。
これに対し、審査手続において先願であるとして引用した意匠は、意匠に係る物品を「直線測定器」とし、意匠の内容を別紙図面(二)のとおりとして、昭和四八年四月一三日に意匠登録出願され、昭和五二年七月一五日に設定登録された意匠(以下「引用意匠」という。)で、複数の単位杆体を所望の長さに伸縮自在に調整できるように嵌挿連結した竿状の杆体とその伸縮に合わせて連動する計測目盛表示部を有する箱体(目盛表示箱)とからなる「間隔測定器」の態様の創作に係るところ、その基本的構成は、各単位杆体がそれぞれ頂部を開口した上下に細長い太さの異なる直状の管状(鞘状)とし、全体は複数の単位杆体を径の大小に従い上方より順次重ね入れたものとし、そして、この竿状杆体の最外側の単位杆体の上端寄りの位置に目盛表示箱を後方に突出する態様に取り付け、一方、最内側の単位杆体の先端に係留具を設けた構成からなり、また、その具体的態様は、最外側の単位杆体は横断面がほぼ卵形の先細側の先端部を直線状に切欠した変形楕円管状としたものであるが、他はほぼ円管状杆体としたもので、各単位杆体は、ほぼ円形を主体とする管状杆体であり、各単位杆体の上端には環状の縁具を配し、そして、目盛表示箱は、取付単位杆体の径(先太側の径)をやや超える幅に相当する厚みのある扁平な縦長の角形箱状で、右厚みに比し前後にも広幅で、その前後端縁(辺)が側面よりみて平行な直線状をなし、一方、取付単位杆体がその前端縁部の前記幅狭の肉厚の中央内側を縦に、断面円形状部を前方にして貫通した態様で結合し、該箱体はその余の全体が後方に突出状とし、他方、同箱体の上端縁(辺)は後下方の斜状に大きく切欠した肩落とし状とし、その平面に目盛表示窓を形成し、下端縁(辺)は後上方のゆるい斜状に後あがり状とし、また、その両側面は後端縁に向かうに従つて厚みがやや薄くなつており、そして、最外側の単位杆体の下端付近にも環状(断面相当)の係留具付の縁金を配し、一方、竿状杆体の先端の係留具は先端で小さな計測片を杆体に対し横L字状に起立させ得るように配したものである。
しかして、請求人(本訴原告)は、引用意匠の意匠登録出願前である昭和四四年日本国内において頒布されたフランス特許第一五四七四八六号公報に現された意匠の公知事実をもとに引用意匠の新規性を判断し、これと本願意匠とを比較して、外套管(最外側の単位杆体)及び目盛表示箱の態様の差異をもつて、両意匠の美感が別個であつて類似しない旨主張している。
そこで、両意匠を比較検討するに、両者は、意匠に係る物品を共通とし、その態様も、基本的構成を共通とするとともに、具体的態様についても、各単位杆体をほぼ円形状の管状の杆体となし、その上端には環状縁具を配し、目盛表示箱は扁平な角形箱状をその前端縁部で杆体に貫通状に結合し、そのほぼ全体を後方へ突出状とし、後上方を肩落とし状、後下方を後あがり状とし、その肩部の平面に目盛表示窓を設けた点において共通し、他方、最外側の単位杆体の断面形状、目盛表示箱の後下隅の隅丸状の有無、先端の係留具の形状等の点において差異があるものと認められる。
しかしながら、最外側の単位杆体の断面形状の点は、引用意匠はこれを変形楕円管状とした点をその特徴の一つとするものとみられるのに対し、本願意匠は、これを、一般的にも、また、この種物品の形状としても、その意匠登録出願前から極めて周知の形状である円管状としたものにすぎないうえ、これを嵌挿連結した竿状の杆体も、その各縁具を含めて同様の周知の態様にすぎず、したがつて、この点に、引用意匠に対する本願意匠の特徴を求めることはできない。また、目盛表示箱の態様についても、その主たる差異である本願意匠がその下端を隅丸とした点は、それ自体、周縁隅角部の形状の造形処理として極めて普通のありふれた手法によるものにすぎず、上端縁に対向した下端縁が後あがり状を呈する点では、両意匠とも共通しており、また、本願意匠が目盛表示箱の前端縁を前面弧状にした点も、両意匠に共通するほぼ円管状の該部の単位杆体の態様及び単位杆体と目盛表示箱との結合態様に希釈されてその印象が微弱である。むしろ、両意匠の目盛表示箱が、扁平で縦長、前後端縁で広幅かつ相互に平行な直線状とした角形箱状の態様において、その大半を後方に突出させ、上端縁を斜状の肩落とし状として目盛表示部を設けた共通点は、下端縁の前記後あがり状の共通点とあいまつて効果的で、前記公知の意匠の存在にもかかわらず、かなりの共通感を誘発するところであるし、ほぼ円形状を主体とした単位杆体の態様が更に両意匠の共通感を強めているものであつて、その余の係留具の形状や目盛表示箱の扁平態様の差異を勘案しても、本願意匠と引用意匠とは、全体としてその基調を共有するものといわざるを得ない。
以上のとおり、本願意匠には、引用意匠に比して異なる外観上の独自の新規な創作が認められず、その結合においても、意匠としての創作的表現はなく、視覚効果に欠けるものであるから、本願意匠をもつて引用意匠と非類似のものとすることはできない。
したがつて、本願意匠は、その意匠登録出願前の意匠登録出願に係る引用意匠と類似し、意匠法第九条第一項に規定する最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当しないから、意匠登録を受けることができない。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
別紙図面(二)
<省略>
<省略>